カロリー制限の研究とその報道
カロリー制限の研究とその報道

研究は遅々と進む感じで思うように行かない。
イマイチ気持ちも乗り切れない感じだ。。。
 

ところで、自分の研究には直接関係無いが、
息抜きに半年くらい前の研究を読んで、考えるところがあった。  
センセーショナルな研究でも、解釈の限界というものがあって、
いろいろと推論してしまうのは、危険なんじゃないかと
思えるものもがあるということです。

2009年の7月、
「(医学的に極度な)カロリー摂取量を制限したお猿さんが
制限しなかったお猿さんより長生きしました。」
という研究が、Science という有名な雑誌に報告されました。
(画像はその報道によく用いられた写真・・著作権はScienceにあり。
左側がカロリー制限お猿。右側が食べ放題お猿。)
RJ Coleman et al, Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys, Science, 2009;325(5937):201-204

Scienceは科学界でトップの学術雑誌。
報告されたこの論文の結果は、世界中に報道されたことでしょう。
日本でもアメリカでも確認できました。

でもカロリー制限(医学的に極度な)って本当に安全なんだろうか?
どんなダイエットなの?

・・と興味を持ったので調べてみたのですが
ダイエットに関する研究でありながら栄養学的な情報は
その論文にはほとんど掲載されていませんでした。

栄養学的にどんなものだったのかを知るには、
次の過去の論文を参照にしなければなりません。
JJ Ramsey et al., Dietary restriction and aging in rhesus monkeys: the University of Wisconsin study, Exp Gerontol, 2000;35:1131

そういうことも、報道の記事には書かれていないのだけど、確認してみて、
報道の内容も、改善されるべきだったのではと思ったのでした。

この研究について、解釈が逸脱しないような報道をするならば、

1.カロリー制限と並行して、必須栄養素は確保されて実は栄養価が高いこと。
2.脂質の摂取がエネルギー寄与率にして10%ほどしかなく(通常20~45%)
3.高炭水化物食であること(エネルギー寄与率にして65%ほど)
4.生まれた頃からではなくアカゲザルの寿命の3分の1ほど過ぎたあたりから
カロリー制限を施していること

の4点を述べるべきでは?
一般の人の食事で、脂質からのエネルギーが10%、
炭水化物から65%なんてありえない。
動物実験だけに、実社会とはかけはなれた食事・・。
確かに医学的に価値はあるけれど、実社会に生かせるか・・という点は
また別問題ということになります。

また、比較対照の群のダイエットは、
欧米人の一般の食事にどれほど近いか
という点に触れると良いと思います。

日常生活でカロリーを控えめに・・となると
どうしても欠落した栄養成分などあるのではないか。
脂溶性や動物性のビタミン、食物繊維なんて、摂るの大変。


エネルギー寄与率というのは、たとえば30%が脂肪・・としたら、
2000 kcalのダイエットなら、600 kcal分は脂肪から摂取した・・ということです。
炭水化物・たんぱく質・脂肪・アルコールのバランスで決まります。

 
話はかわって、報道内容についても気になりました。
日米の違いが明白だからです。
 
New York Timesの
7月10日の記事(http://www.nytimes.com/2009/07/10/science/10aging.html)では、
栄養価については詳しく書かれておらず、カロリーが低く抑えられたことのみ触れられています。
研究の問題点として死因に関する考察が欠けている点について、
University of TexasとMITの専門家からのコメントが掲載され、
いささか客観的なコメントが提供されています。

MSNBC (Microsoft National Broadcasting Company, http://www.msnbc.msn.com/)の
7月9日の記事では、研究のデザインと上記の栄養価に関する問題点にも触れ、
米国の加齢研究所の研究者からの客観的なコメントが寄せられており、
NY Timesと記事の内容としては似ています。
また似たような長寿に関係する研究についても述べられているのは
客観的で、好感がもてます。

他の記事でも、多少のばらつきはありますが似通ったアウトライン。

北米のウェブの記事は、客観的なコメントが入っています。
研究の問題点など、複雑なことは抜きにして述べられており
そうした傾向は良いことと思います。

かたや、日本の記事となると、研究成果だけで、
その研究に意義があるか否かが述べられているだけで、
研究の詳細や他の研究との比較などはありません。 
 
 
この研究に限ったことではないけれど、
栄養や疫学に関する研究成果の報道について
日米の違いは明白・・
研究者のコメントや他の研究との相違、
整理されたリンクなど多くが異なっています。

日本の報道の改善に、今後、関わっていけないかな?

コメント

もげ
2009年12月29日11:53

Bowさんが専門家として登場するしか…
まぁ、あんまりお勧めする世界じゃないですけど。
そういうサイトを作って地道に書かれた方がいいかもですね~。
勝手に編集されたら、それこそ嫌では…?

Bow
2009年12月29日12:13

◇もげさん、
コメントありがとうございます。

仰るとおりですね。
医学といっても、かなり細分化されているので、
それぞれの分野で、いろいろと解釈や推論が異なってしまい、
さらにメディアの編集を経て、不十分なものになってしまうのだと思います。
討論会みたいなものがあれば、
全体像が掴めるのですがそうもいかないですしね。

アメリカの報道は、その点について、十分とは言わずとも
複数の専門化から意見を募っているので
そういった報道の傾向には好感が持てます。
日本はそうはいかないですね、、、

ワタル
2009年12月30日10:39

研究デザインの問題はどこまでもつきまといますね。
あまり詳しくは知らないですが、特に疫学の分野で変なのが多いと聞きました。(研究自体が多いのかもしれませんが)

Bow
2009年12月30日14:37

◇ワタルさん、こんにちは!
コメント、ありがとうございます!

仰るとおりですね。研究デザインの時点で、おかしなものが多いのは確かです・・
紹介した、カロリー制限の研究は、デザイン自体にはおかしいところはない印象です。
確かに、私たちの実際の生活とは程遠い食事の内容のようですが、
それでも1つの医学研究としては非常に細やかでしっかりとしていると思います。

私が専門とする疫学の分野は、実際の人の研究ですから
医学的なエビデンスとして質が高くなりやすく、
公衆に対するメッセージが強いという特徴があります。
ですので、近年は、疫学者としての訓練を受けていない人でも
「疫学的な」研究が行われていると思います。
しっかりとした妥当なデザインの研究ももちろん、増えていますが、
おかしなデザインや理屈の研究も増えていると思います。

ろっしふみ
2009年12月30日15:42

これ新聞の記事で読みました。確かに栄養素の割合には触れていなかったような気がします。適当なんですねぇ(゚_゚でも、不景気のせいかダイエットブームも一段落したみたいなので、この手のネタもあまり影響が無くなったように思います(^_^;)お元気そうでなによりです。よいお歳をお迎え下さいませ(^▽^)ノ

Bow
2009年12月31日20:21

◇ろっしふみさん、こんにちは!
どうもありがとうございます。

お猿さんの実験は、カロリー制限なので、栄養素の欠乏には
十分に配慮がなされていたように思いますが、
炭水化物やたんぱく質、脂質のバランスは、
もっと改善できたのでは・・と思います。
しかし、お猿さんが食べやすい、長期の実験も可能なほど安価・・などの
条件があって仕方なく、人の食生活との相違が明白な食事になったのかもしれません。
やはり、医学的な貢献度は高いものの、人の実生活に直接、
応用できるか・・という点でこれからの研究が必要・・と言うに留めるのが良いですね。

不況で、普段の食事も安いもの安いものになってしまっているのでしょうか?
健康を犠牲にしないようにきちんとした情報と、環境が整えられなくてはと思います。
アメリカの低所得層のひどいダイエットと肥満率などが
その必要性を明白に示唆しているので・・

ろっしふみさんも、年越し、年始、
お風邪など気をつけて、楽しくお過ごしくださいね!
Bow

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