紫色の野菜たち
次のうち自然界に存在しないものはどれか。
1.紫ピーマン
2.紫トマト
3.紫アスパラガス
4.紫にんじん
5.紫カリフラワー
6.紫キャベツ
7.ブルーベリー

答えは文中にあります。
紹介してくださったMimiさん、ありがとうございます!
僕は疫学の研究をしているので、若干(かなり?)畑違いですが
興味深く読ませていただきました。

自然界に存在しない紫色の野菜には、
遺伝子組み換えにより、色素化合物が導入されている。
この色素は抗酸化作用があるアントシアニンと呼ばれる化合物の類。
その色素を生産するようなタンパク質の生産を担う遺伝子を
生物工学的に導入したというわけですね。

遺伝子組み換え食品の安全性が懸念されるのは、
殺虫作用を持つ物質だとか、アレルギーの原因物質だとか、
そんな種類に関係のある遺伝子を導入した際のことだと思う。
以前、ブラジルナッツの遺伝子を組み込んだピーナッツにより、
ブラジルナッツアレルギーを発症したケースを読んだことがある。
紫色を生んでいる色素は、画像に無い野菜・果物だと、
ナスだとか、葡萄だとかで常日頃から摂取しているので、
ほぼ安全だと考えられる。安全性については問題ないのでは。
今後の研究で簡単に裏付けられると思う。


工学的な遺伝子組み替えでなくても、
いろいろ接ぎ木やら、人工的に交配させることで
自然に存在しない植物を栽培することが可能だ。
倫理的なラインを引くのは難しいような気がする。


で、自然に存在しないものの答えは紫トマト!
その報告のあるNature Biotechnologyという学術雑誌をさっと目を通しました。
Enrichment of tomato fruit with health-promoting anthocyanins by
expression of select transcription factors.
Butelli E, Titta L, Giorgio M, Mock HP, Matros A, Peterek S, Schijlen
EG, Hall RD, Bovy AG, Luo J, Martin C.
Nat Biotechnol. 2008 Oct 26.
http://www.nature.com/nbt/journal/vaop/ncurrent/abs/nbt.1506.html

TIMES ONLINE
http://www.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/health/article5014788.ece

容易に信じられないことかもしれないけれど、
医学でもなんでも、いずれの科学でも、
こうしたニュースとなると、専門家の監修とうたっていても、
信憑性の薄いものが数多くあるので一般の人たちは要注意・・。
でも、このニュースの由来は、研究者であれば誰もがその情報に信頼をおくであろう
学術雑誌のNature Biotechnology。
論文のアクセプトの際にも、専門家の客観的なレビューが入るので信頼できる。

実際に、癌を発症しやすいように遺伝子が組み替えられたマウスを使って、
普通のトマトと、紫トマトを比較したところ、紫トマトの方を摂取した
グループの方が、寿命が長かったようだ。

「科学的にこういうことが可能ですよ」という報告だと思う。
僕としては、いろいろな可能性について議論を生んだ
遺伝子組み換え羊「ドリー」の話とあまり変わらない印象を持っています。
市場に出回っても、「不自然な健康食品」という扱いで終りそう。
そもそも健康に良いからと言って、毎日同じ食品を食べる人はいないし・・。

しかしながら・・・奇抜で異様な紫トマトだが、
科学的に根拠が無いくせに、抗癌効果をうたっている健康食品よりははるかに
信頼できる。
そういった選択肢としてはあっても良いと思う。

それに関連して、この研究、寿命を長さを調べるより
発症した癌の悪化や転移を防ぐかどうかを検証した方が
医学的に意義があると思う。そっちの方向の方が良いと思う。
スーパーマーケットに出荷するよりも医療現場に応用する方が良いのでは。
公に出しては、倫理的な議論を生んで、
ある方面では有効なものなのに、違うところで潰されてしまいそう。

また違う見方なのだけど・・
僕らの生活には、すでに慣れ親しんだ赤いトマトがあるから、
紫色をしたトマトというと異様に感じてしまうだろう。
公に出回っているインスリンだとかのタンパク質製剤は、
だいたい遺伝子組み換え大腸菌などから大量生産されている。
ビタミン剤なども、工学的なプロセスを経て生産されている。
医学分野ではフランケンシュタイン(つまり「えせ」)みたいなのがわんさかいる。
遺伝子組み換え豚やら、フェレットやら。
遺伝子組み換え野菜も、そんな捉え方をすれば違和感も減ると思う。
公衆に近いところだから変に盛り上がってしまうのだ。

科学的な発展の一部、
限られた応用・・そんな範疇に留めておけばよいかと思います。

コメント

Mimi
2008年11月1日20:54

Bowさん、

お忙しいところ、早速、コンサイスにまとめていただいて、
ありがとうございました。
興味深く読ませていただきました。

>この研究、寿命を長さを調べるより
発症した癌の悪化や転移を防ぐかどうかを検証した方が
医学的に意義があると思う。

これから、そちらの方向の研究も出てくると思います。先ずは、寿命の長さを見るほうが、黒白付け易く、よりセンセーショナルと言う部分もあったのではないでしょうか?この研究は、英国政府からも研究資金を得ていますので、Fundingに関するpoliticsみたいなものがあっただろうと思います。

医学的、科学的なだけでなく、宗教的、文化的、そして商業的な興味をも呼ぶ話題なので、議論になるのでしょうね。社会学でも、ポストモダンにおける”自然”と言う概念の変化とか、いろいろ議論が出ています。

また何かあったら、よろしくお願いしますね。
本当に、どうもありがとうございました。

花音
花音
2008年11月2日22:17

Bowさん、こんばんは。
横レス失礼します。

遺伝子組み換え食品に以前から興味がありました。
ポテトチップスやお豆腐の原材料欄にじゃがいもや大豆が「遺伝子組み換えではない」ことが強調される表記が多いように思えて。
それならば遺伝子組み換えのものは一体何に使われているんだろうか?と疑問に思ったのが発端でした。
素人なりにネットで調べてみると、スーパーや八百屋さんの店頭に並んでいるほとんどの野菜が元から自然界に存在していたのではなく、野生種を食べやすい形に品種改良して生まれていたものだと知って大変驚きました。
魚介類にも三倍体と言う技術が使われていたり、ペットショップに並んでいる愛玩動物たちも人間が飼い易いように品種改良されていたり‥‥。
コシヒカリや東京Xといったブランド食品も品種改良の賜物なんですよね。

遺伝子組み換えは品種改良が進化した技術であることも知り、否定的な悪いイメージで捉えることが誤りであることにも気づきました。
ただ、食品に関しては日常的に口から摂取するものゆえに安全性の確立や立証は不可欠であるのが当然でしょう。
また、動物にその技術が適用される場合は倫理的な見地からの慎重な対応も当然配慮されなければならないと思います。

熱帯地域の伝染病コレラに苦しむ人々のために、遺伝子組み換え技術によってコレラワクチンが含まれたバナナが研究されているそうです。ワクチンの接種には多額の費用がかかるため、多くの子供たちが治療を受けられないのが実情なので。

未知の分野の研究がなされる場合はプラスの部分もマイナスの部分も出るのが当然でしょうから、いろんな見地からの様々な議論が活発に行われるべきだと私も思います。

ド素人のコメントなので、おかしな所があったら教えて下さいね^^

Bow
2008年11月4日1:53

◇Mimiさん、
コメントありがとうございます!

>先ずは、寿命の長さを見るほうが、黒白付け易く、
よりセンセーショナルと言う部分もあったのではないでしょうか?

その通りですね。わかり易い、試験し易いというのはあったかと思います。
この研究、癌が発症しやすいように組み換えられたマウスで試験しているので
死因は癌関連なのではと思うのです。
癌の発症、進行などの観察も同時に行われたと思うので、
その辺の発表も今後気になるところですね。

>この研究は、英国政府からも研究資金を得ていますので、Fundingに関するpoliticsみたいなものがあっただろうと思います。

論文を読む限り、EUの科学研究費が関係しているらしく、
EUが遺伝子組み換えなどに敏感なことを考えると、なんだか面白いですね。
著者・共著者は、英国、ドイツ、イタリア、オランダと
他国に渡っています。科学者は冷静に見ているところではないでしょうか。
イギリス政府の支援といっても、政治的なバイアスなどは無いでしょう。
批判的な解釈は、メディアの報告に由来するところが多そうです。
論文では、
「アントシアニン類を豊富に含んだ植物を食べると良い」
というようなマイルドな内容で論を結んでいます。
ニュースに挙げられている「可能性」については、
この研究の著者たちにとっては、とんでもない話の飛躍かもしれません。
この研究は科学的な可能性に意義があるのであって、
公衆に対して何か訴えるものでは何もないと解釈できます。

この手の話は、Mimiさんの仰るとおり、いろいろな話につながってしまうので、
科学者にとっては(面倒な)難しい話も多くなるのでは・・と思います。
京都大学の山中伸弥教授らが皮膚細胞からいわゆる万能細胞の開発に成功した件で、
山中教授は自らメディアに登場して倫理的な側面について言及しました。
核物理学者が同時に核の廃絶を積極的に訴えるような、
そんな姿勢が、科学者に要求されているのかもしれませんね。
メディアにまかせっきりでは、予想外の論議が持ちあがってしまうかもしれませんから・・。
TIMEの記事では、あたかも研究者に妙な企みがあるような印象さえ持ち得ます。
論文を読む限り、そんなことはまったく感じないのですが・・。
メディアのインタビューに応じて、研究の可能性に対して批判的なコメントを
科学者は述べていますが、それ批判自体、研究の内容を逸しているので妙な気がします。

Bow
2008年11月4日1:53

◇バラ色のくまさん、こんにちは!
コメント、ありがとうございます!

>ポテトチップスやお豆腐の原材料欄にじゃがいもや大豆が「遺伝子組み換えではない」ことが強調される表記が多いように思えて。
それならば遺伝子組み換えのものは一体何に使われているんだろうか?と疑問に思ったのが発端でした。

そうですね。日本の食品のラベルは、
遺伝子組み換えの情報が必須なようで興味深いです。
日米の違いのひとつですね・・。食品ラベルの違いは。
畜産業の飼料作物など、人々の口に直接入らないものの中に、
アメリカやブラジルなどからの遺伝子組み換え資料が多いと思いますよ。
安全で清潔な環境で育てられた牛を売りにしているお肉を摂取していたが、
実は遺伝子組み換え作物で育成されている・・なんてことを知ったなら、
一般の人たちはどういう反応をするのでしょうか・・。

>コシヒカリや東京Xといったブランド食品も品種改良の賜物なんですよね。

仰るとおり、遺伝技術が発達する前から、
品種改良は自然の領域を超えていると思います。
「糸を引かない納豆」も品種改良の賜物です^^
これは納豆学会に直接、問い合わせたので覚えています。
遺伝子組み換えの話だけに敏感になっているのはおかしな話です。
ただ、殺虫作用を持つ遺伝子だとか、明らかに自然界に存在しない遺伝子を導入することは、全く別の関心を寄せてもよいかなと思います。

>動物にその技術が適用される場合は倫理的な見地からの慎重な対応も当然配慮されなければならないと思います。

動物実験はなんでもありな状態ですね。。
去年のノーベル医学賞はそういった遺伝子組み換えされた動物の開発を行った研究者に授与されたのですが、
動物愛護の団体はどうどう考えたのか、また興味深いです。
ノーベル医学賞と関係する研究というとすばらしいことかと思いますが、
トマトを紫色にするのとしていることは一緒だと考えると
応用次第で評価は違うんだなと・・。また考えさせられます。

>熱帯地域の伝染病コレラに苦しむ人々のために、遺伝子組み換え技術によってコレラワクチンが含まれたバナナが研究されているそうです。

あぁ、バナナの話は存じませんでした。どうもありがとうございます!
調べてみたら1995年に初めて報告されたようです。
僕も、遺伝子組み換え作物というと、発展途上国の人たちの衛生・
栄養状態に貢献できるものを思い出します。
いろいろ栄養素や生産性の高い作物が遺伝的に開発されています。
そうした可能性について、遺伝子組み換えに批判的な人たちはどう反応するのでしょうか?
いろんな可能性を考えられるので、1つのものの見方で
否定的になったりするのは残念なことですね。

バラ色のくまさんの仰るように議論はやはり必要だなと思います。
とりあえず、研究成果と一般の人たちを結ぶ、
メディア側にはバイアスのかかっていない情報を発信してほしいですよね。
バラ色のくまさんが挙げられたように、いろんなものの見方ができますから、
そのいろいろな視点を幅広く的確に提供してほしいと思います。

chiaki
2008年11月4日12:00

難しい話はよくわからないのですが・・・
単純に紫色のトマトは見た目がいやだなぁ・・・と思いました。
まぁ、小さな頃から見慣れていれば全然OKなんでしょうけど。
紫のピーマンもちょっと毒々しいかも。

遺伝子組み換えってなんだか怖いイメージですが、
体に良いものだったり、病気を治すものだったりする場合も
あるのですね。
何も知らずにただ怖がっているだけではダメですね。

花音
花音
2008年11月4日15:59

Bowさん、こんにちは。

ご丁寧なレス、どうもありがとうございました。
Bowさんのコメントから、また様々な勉強をさせて頂きました!

>研究成果と一般の人たちを結ぶ、
メディア側にはバイアスのかかっていない情報を発信してほしいですよね。
本当にBowさんのおっしゃる通りだと思います。
メディアの伝え方一つで、事実も真実も歪んでしまう可能性が何より一番恐ろしいことなのかもしれません。
地球温暖化の原因の一つである二酸化炭素も最近は「有害物質扱い」されているような気がしてなりません。
排除の論理は単純で受け入れやすい日本的な物の見方の悪い例だと思ってしまいます。

私が書いたコメント内容のソースを私の日記に載せておきました。
よかったら覗いてみて下さい^^

Bow
2008年11月5日2:59

◇chiakiさん、こんにちは!
コメント、どうもありがとうございます!

僕も紫色のトマト、違和感を覚えました・・。
ナスやブドウ、キャベツなど紫色の野菜・果物は当然あるのですが
他のものにその色が移殖されるとなるとぜんぜん、違う印象を受けますね。

遺伝子組み換えの話は、怖い印象はいったいどこから来たのでしょうね・・。
羊のドリーの話からでしょうか。「悪事千里を走る」ではありませんが、
ネガティブでスキャンダラスな話ばかり公に出がちなのかもしれませんね。
遺伝子組み換えの良いところなんて、ニュースを流しても、
「遺伝子組み換えを支持するのか!」
って批判すら出てきてしまうかもしれませんね。

chiakiさん、これからもいらしてくださいね!

Bow
2008年11月5日2:59

◇バラ色のくまさん、こんにちは!

こちらこそ、ありがとうございました!
いろいろ調べられたバラ色のくまさん、素晴らしいと思います。
またいろいろシェアしてくださいね!

科学の産物は、応用の仕方で良くも悪くもなるのですよね。
基礎研究・応用研究も、それによって普及する情報も、
妥当性、倫理性について、歪んでいないことを願うばかりです。

ではでは、これからもよろしくお願い致します!

蒼月しおん
2008年11月7日11:29

Bowさん こんにちは^^

自然界に存在しない紫色の野菜たち・・
想像してみると・・う~ん。あまり美味しそうなイメージはないですね(笑)
紫って 食欲をそそる色ではないですものね。

でも こうして拝読していますと・・色々と感心することばかりです。
いつもBowさんの日記 興味深く拝見しています^^

ところで 紫色の野菜たちには ちょっと恐々な私ですが、
青い薔薇(実際は紫色に近いらしいですが)は、
いつかこの手にして うっとりと眺めてみたい願望があります(笑)

Bow
2008年11月7日23:34

◇蒼月さま、こんにちは!
コメント、ありがとうございます!

>紫って 食欲をそそる色ではないですものね。

そうですよね、ちょっと抵抗がありますよね。。
「瑞々しい」などの表現から離れていますよね。

>いつもBowさんの日記 興味深く拝見しています^^

どうもありがとうございます!
最近は、頻度も落ちがちですが・・。
頑張ります!

>青い薔薇(実際は紫色に近いらしいですが)は、
>いつかこの手にして うっとりと眺めてみたい願望があります(笑)

青い薔薇・・自然のものではないようですね。
先日、バラ色のくまさんが(バラ色!)が教えてくださった
サイトに掲載されておりました。
ちょっといつもと違う興味・・という感じですよね。
自然の虫さんたちの評価はどうなんでしょうね・・。

蒼月さま、これからもいらしてくださいね!

タケル
2008年11月8日12:50

リンクありがとうございます!
Bow様の文章は大変学術的でありながら、非常に読みやすい文章で
本当に驚いております。
不肖の身なのですが、よろしくお願い致します。
私もいつかアメリカで1年でも勉強してきたいと考えております。

Bow
2008年11月9日10:54

◇タケルさん、
コメントとリンクありがとうございます!

文章、読んでくださってありがとうございます。
さらに読みやすいとのことで嬉しいです。
以前からリンクしたいと思っていたのですが
コメントできずに躊躇してしまっておりました。

タケルさんも留学に興味をお持ちなんですね。
この日記、留学をし始める頃から書いているのですが、
もしよろしかったら、僕の日記の最初の方、ご覧になってみてくださいね。

学術的なことなど、勉強させて頂きたいです。
どうぞよろしくお願いいたします!
Bow

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